2022年11月8日に、株式会社パーソル総合研究所から日本を含めた世界18カ国における就業実態・成長意識に関する調査結果が発表されました。
この調査によって、もの凄く平たく言うと、働いている日本人※は世界各国と比べてとにかく勉強しない!という結果が出たので、その内容について見ていきたいと思います。
日本のサンプルに外国籍の方も含まれている可能性もありますが、大多数は日本人だと推定されるので、この記事ではすべて日本人と見做して論じていきます。
- 調査対象エリア
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- 18ヵ国・地域(調査都市)
- 【東アジア 】日本(東京、大阪、愛知)、中国(北京、上海、広州)、韓国(ソウル)、台湾(台北)、香港
- 【東南アジア】タイ(グレーターバンコク)、フィリピン(メトロマニラ)、インドネシア(グレータージャカルタ)、 マレーシア(クアラルンプール)、シンガポール、ベトナム(ハノイ、ホーチミンシティ)
- 【南アジア 】インド(デリー、ムンバイ)
- 【オセアニア】オーストラリア(シドニー、メルボルン、キャンベラ)
- 【北 米】アメリカ(ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルス)
- 【ヨーロッパ 】イギリス(ロンドン)、ドイツ(ベルリン、ミュンヘン、ハンブルグ)、フランス(パリ)、スウェーデン(ストックホルム)
- 18ヵ国・地域(調査都市)
- サンプル数
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各国・地域 約1,000サンプル
- 対象条件
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- 20~69歳男女
- 就業している人(休職中除く)
- 対象国に3年以上在住
- 調査手法
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調査モニターを対象としたインターネット定量調査
- 調査期間
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2022年2月10日~3月14日
- 実施主体
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株式会社 パーソル総合研究所
- 参照元
社外での自己研鑽について、日本は「とくに何も行っていない」が割合が52.6%
「勤務先以外での学習や自己啓発の活動状況」に関する調査データをみると、「とくに何も行っていない」という回答割合は、全体平均だと18.0%なのに対して、日本は52.6%と断トツで高い結果となりました。
2番目に高いのがオーストラリアの28.6%ですから、52.6%という数字を叩き出した日本が国際比較で圧倒的に勉強しない社会であることが分かります。

日本は自己投資意欲も最低数値
さらに勤務先以外での学習・自己啓発に対する『自己投資』については、「既に自己投資している」割合が全体平均で72.3%なのに対して、日本は40%で調査対象国の中で最も低い結果となりました。

ここの調査結果で注目するべきは、現在自己投資していない回答者の内訳です。現在自己投資していない回答者は「これから自己投資をしようとしている人」と「今後も投資する予定はない人」に分けられるのですが、日本は「今後も投資する予定はない人」の割合が42.0%であり、将来的な自己投資意欲も際立って低い傾向が見られます。
なぜ日本の社会人は勉強しないのか?
なぜ日本の社会人は勉強しないのか?その原因について、引き続きパーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」の調査結果から探っていきたいと思います。
労働時間の長さが原因とは言い難い
よく日本人は勤勉で仕事に真面目、プライベートよりも仕事を優先するから働きすぎというイメージがありますが、週あたりの労働時間は、全体平均が41.8時間なのに対して、日本は41時間と平均並みという結果となっています。
また勤務先以外での自己研鑽に意欲的なフィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナムは、日本よりも週あたりの労働時間が長いという結果も出ています。

今回参照した「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」のデータだけ見ると、労働時間の長さが、日本人が勉強しない理由とは考えにくそうです。
子育てで勉強時間がとれない人は少なそう
労働時間が原因でなければ、プライベートで過ごす時間に原因があるかもしれません。
プライベートでも自分の時間が確保できない理由としては、労働時間が平均並みでもプライベートでは子育てや介護など家族のために時間を要してしまい、勉強時間が確保できていないといったあたりの理由がありそうです。
しかし、回答者の基本属性を見てみると、日本は調査対象国の中で未婚率が53.0%と最も高く、子供の有無についても「子供はいない」の回答率は57.9%とこれも調査対象国の中でもっとも高い結果が出ています。


この調査結果から、子育てが日本人が勉強しない(できない)原因とは考えにくそうです。
あとは介護に時間を取られているという可能性もありますが、今回参照した調査内容に、介護の有無に関する調査はありませんでした。
単純に学習意欲が低い可能性が大きい
これまでの調査結果から、時間的要因が勉強しない理由とは考えにくいことが分かりました。
時間はあるのに勉強しない原因は?となると真っ先に浮かぶのが、そもそも勉強する意欲を持っている日本人が少ないということです。
調査データを見てみると、この仮説を裏付けるような結果がいくつか出ています。
日本は管理職になりたい人の割合がもっとも低い19.8%
「.管理職になりたい人の割合」に関する調査データをみると、管理職になりたい人の割合は、全体平均で58.6%に対して、日本は19.8%と最も低い結果となりました。

会社で一定の権限を与えられる管理職は、会社全体の目標達成のために個人としてはもちろん、チームに方向性や目標を示し、時にはメンバーの指導やサポートを行うことが求められます。
管理職を目指すならば当然マネジメントスキルやEQなどについて学ぶ必要が出てくると思いますが、日本においては前述のデータが示す通り、管理職を目指す人が少ないため、管理職向けのセミナーを受講したり、管理職を目指して自習したりする絶対数が少ないことが考えられます。
日本は転職意向、起業意向すべてが低い
勤続意向と転職に関する調査データを見てみると、次のような結果が出ています。


- 他の会社に転職したい人の割合は、全体平均で35.2%なの対して、日本は25.9%で2番目に低い
- 会社を辞めて独立・起業したい人の割合は、全体平均で35.1%なのに対して、日本は20.0%ともっとも低い
転職意向も起業意向も低い日本においては、資格取得やスキルアップのための自己研鑽の必要性も感じていない人が多いことが考えられます。
なぜ日本人の学習意欲が低いのか?
ではなぜ日本人の学習意欲は諸外国と比べて低いのでしょうか?
理由1 成長しなくても十分な給料がもらえる
現在の年収に関する調査データを見てみると、年収の全体平均は40,055USDなのに対して、日本の年収は45,468USDと調査対象国の中で9位と中位レベルながらも全体平均を5,400USDも上回っています。これは自己研鑽に意欲的だったフィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナムと比べると、大体1,800USD〜3,500USDほどの差があります。
物価の違いはありますが、日本人労働者は諸外国と比べるとたくさんの給与がもらえているのです。

また成長志向度に関する調査データを見てみると、働くことを通じた成長は重要だと感じている人の割合は、全体平均で93.2%なのに対して、日本は79.5%ともっとも低い結果となっています。

つまり、日本人労働者の多くは、成長しなくても働き続けることはできるし、収入も現状で満足している人が多いことが、普段の学習の優先度を下げていると考えられます。
理由2 仕事に達成感を感じない
日本社会に多い、分業体制・ゼネラリスト思想も学習意欲を低下させている理由の一つです。
日本の特徴は単一民族かつ島国で異なる文化思想の人が入りにくい社会ということもあり、モノゴトに対して規律を作りやすい社会であるということです。仕事を分担しても決められた通りきちんとこなせる能力が非常に高いので、分業体制にした方が会社の生産性を高くできます。
また日本の会社の場合、専門家よりもゼネラリスト養成に重きをおいており、一定期間で部署をローテーションさせる人事パターンが多いです。
このバックグラウンドには「空気を読む」という言葉からもわかる通り、「言わなくても分かるよね?」「察してね?」という日本独特の考え方が、潜在的に社内事情をよく知っている人材育成方針に繋がっているのです。
分業体制・ゼネラリスト思想が学習意欲低下につながる理由
分業体制は作業効率を重視した働き方ですが、業務がルーティンワーク化しやすく、自分の仕事が会社にどれだけ貢献しているのか分かりにくいという欠点があります。
また自分としては今の業務を極めたいと思っても人事であまり興味がない部署へ異動となることもあるでしょうし、そもそも異動する人もそれを受け入れる人も「またそのうち異動になるから…」と考えてしまい、あまり深い業務をやりたくない・やらせないという考え方を持つ人が増える原因にもなります。
要するに、仕事をしていても面白いと感じにくい組織が多いのです。
調査データを見てみても、「はたらくことを通じて、幸せを感じている」就業者の割合は全体平均で74.7%なのに対して、日本は49.1%ともっとも低い結果が出ています。

まとめ 働いている日本人が勉強しない理由

ここまでいろいろな調査データを引用しながら働いている日本人が勉強しない理由を考えてきましたが…
「頑張っても頑張らなくても給料は変わらないし、解雇される心配もなく、特段食い扶持に困ってもいないから勉強する必要がない」
という考えの人が多いことが根っこの原因なのだと思います。
日本は年功序列、終身雇用、集団主義という考えが強い国です。
これは悪い面ばかりではなく、安定した生活が送れるという良い側面も持っています。
ただし、今回の調査からも分かる通り、日本は諸外国と比べて大人が勉強しない国であるということは認識しておくべき事実だと思います。
日本の安定した雇用に感謝はしつつも、それに胡坐をかき続けるのではなく、資格の取得やスキルアップなど自己研鑽に努められるようになるといいですね。